「児童ポルノ排除総合対策」パブコメに関する追記事項

内閣府児童ポルノ排除総合対策のHP
http://www8.cao.go.jp/youth/cp-taisaku/k-5/gijishidai.html
↑において、
先日のパブコメ募集の「意見募集結果概要」(リンク:PDF
が出ています。

今回の前提:
「対策案」→http://www8.cao.go.jp/youth/cp-taisaku/k-5/pdf/s4.pdf
対策案に対するパブコメの過去記事→「第2次児童ポルノ排除総合対策」(素案)に関する意見募集について - こいつにコンティニューだ!
(参考)
児ポ法改正案に関する過去記事→うぐいすリボン主催5.11児童ポルノ規制に関する論点解説 (名古屋) - こいつにコンティニューだ!


 これについて、(主に苦言となりますが)指摘しておく必要のある点があると思います。前回の記事を書いたときに言っておくべき点であったかもしれませんが、結果概要をふまえて考えたいと思います。

 確認してほしいことは、「第二次児童ポルノ排除総合対策(案)に対するパブコメ」であることを踏まえてパブコメを出したか、ということです。
 このパブコメの募集時期と前後して、高市早苗議員の議員提出法案として児ポ法の改正案が議論に上っていたことは、パブコメを出す人なら知っていたことでしょう。しかし、同案は高市議員のもので、国会で審議される立法活動としてのものです(自民党が党全体として何が何でもこれを通す、というほどやる気なのかどうかは定かで無いのですが)。
 一方、総合対策の方は、犯罪対策閣僚会議が行う行政活動としてのもので、内閣府警察庁生活安全局(生安)、総務省法務省刑事局厚労省文科省なぞが集まって統一方針のもとに総合対策をしようということで、各所から官僚が集まってその方針を決めるものです*1。今回のパブコメは、この総合対策の決定に際して、(法律で義務付けられてはいないし、温情的ということもできるわけですが)一応国民の意見も聞いてみようということで、「この総合対策どう思う?」と尋ねたものです*2
 これを前提にしますと、前者に対する反対意見を後者についての今回のパブコメで主張しても、立法府に対する文句を行政府に対して(そしてこれらは三権分立に基づき一応分離されたものである)主張することになるわけで、基本的には意味がないということです。

 先日の、大屋教授の講演をもとにした児ポ法改正案についての記事(リンク)でも示した定義の通り、現行法の(そして改正案でも変更の加えられていない)「児童ポルノ」の定義には創作物は含まれないことになっています(行政解釈も一応そのようになっていると思われます)。ゆえに、今回の総合対策案の内容もこの定義によっているわけで、現行法にない「創作物規制」「単純所持禁止(単純所持処罰でないことは正しく認識して下さい。付随する問題については児ポ法改正案に関する過去記事に。)」について今回のパブコメで主張することは、筋違いな議論と言われてしまうかもしれないわけです。(念のため注記すると、現行法の規定は不明確であってその点に対する意見には意味があると思いますし、児ポ法の厳正な適用が云々と対策案に書かれていますので、捜査に対する抑制等の観点から、不明確性を排除して実在児童に係るモノに限定する必要は実際あると私は考えています。)

 つまり何が言いたかったかといいますと、「対策案を読み、対策案に対する意見を言わなければならない」ということです。パブコメの結果概要にある、「創作物規制反対」「単純所持禁止」というのは、「パブコメの目的である『第二次児童ポルノ排除総合対策(案)』を読まずに、あるいは読んだとしてもそれに対応せずに、筋違いな主張をする意見が大量に寄せられた」と把握される可能性もあるということです。

 ただ、文句ばかり言おうというのではないこともお伝えしたいと思います。こういうことを気にするのは法学に関わる者として、それを広める必要があろうと私が考えているからに過ぎません。ただでさえ、この件について反対のパブコメを出したことを知られた場合の本人の立場を考えたら、パブコメの提出に至るまでのハードルは低くない*3でしょう。表現規制に反対するために、わざわざこんなことまで考えてからでなければ意見も出せないとなれば、パブコメの数そのものを減らしてしまうし、数が少なければ政策決定者へのインパクトも小さくなります。だから、「難しいことはよくわからないけど、とにかくこの対策案はまずい気がする!」という意見もパブコメとしてぶつける意味はありますし、今回のパブコメでも創作物規制反対派が意見主張を行ったことの意味はゼロではなかろうと思います。今後もこの手の意見募集等はあるかもしれませんし、議員等への陳情も考えられると思います。そのときに、相手に自らの考えを伝えるために、「誰に」「何について」「何を主張するのか」を考えてみるといいのではないか、ということだけお伝えしたかったのでこの記事を書きました。


 なぜわざわざこんな事を、というのにはもう一つ理由があって、著作権法のDL違法化・犯罪化のプロセスで行われたパブコメ募集の際に、ある団体が作ったパブコメをテンプレにコピペしたようなパブコメが大量に送信され、結果概要でその旨注記されていた、という事件がありました。これもつまるところ、何も考えずにテキトーにぶっぱした結果、反対意見全体の信頼性を下げる結果をもたらしたのではないかとも思われるからです。仮にも政策決定に物申そうというのですから、自分の頭で必死に考えて作り上げたパブコメであってほしいな、と思ったからです。

*1:ここ→http://www8.cao.go.jp/youth/cp-taisaku/index.html「構成員」の項参照。

*2:募集ページにありますね→パブリックコメント:意見募集中案件詳細|電子政府の総合窓口e-Gov イーガブ

*3:お前は気にせんのか、と言われても私個人は一向に気にしませんが