バイトと法律と、次世代型労働組合の妄想

 先日、同期としていた話を発展させて。

 大学生のする時間あたりいくらのバイトに、サービス残業があったり、8時間超えとか深夜の割増が払われてない、というのをよく聞きます。どうせ最大でも4年までしかやらないのだから、さっさと辞めて次のバイト探しゃいいのに、と私なぞは思うところです。まあそれでも、周りには『いい人』が多いので、律儀に働き続けたり、「やめるときは2ヶ月前に通知しろ」という就業規則に従わなければいけないと思っていたりするようです。もちろんこれに従う義務は無いのでこういう書きぶりです。期間の定めがなければ民法627条1項により2週間前に意思表示すれば足りるので。(期間の定めがある場合は原則途中解約はできないものの、やむを得ない事由*1があれば民法628条にもとづき解除できる。)これ以外の理由としては、学生アルバイトの労働市場全体として、バイトを変わった先がまた劣悪である可能性がそれなりに高い(特に外食産業・学習塾等)ということもあるかもしれません。

 さて、このような場合に、退職後に*2未払い賃金を請求するというのが可能です。労働契約の賃金債権の時効は2年(労基法115条)のため、退職から2年まで遡って請求ができます。


 ……というのが法律上の権利の有無の話です。


 しかし、請求可能な額はさしたるものでない(6桁になる場合も稀かも)上、未払い分が具体的にどれだけかという立証も簡単でないため、個別に弁護士を雇って回収を図るような未払い賃金ではない(というか赤字になる)というのが実際のところでしょう*3

 とすると、こういう学生労働者のために何かをするというのは、個別に実務家がカネもらってやるもんではないよねぇ(社会貢献としてタダ働きするなら別ですが)という話になった。事業としてやれるかというと、過払い金みたいに定型的に右から左へというもんではなく、まず労働時間にかかる証拠がないと話始まらない*4し、実労働時間と月ごとの給与明細の情報整理したりとかなんとか、地味な作業が多いから基本的に(それこそエクセルをある程度使える学生のバイトを雇ってやるにしても)なかなか割に合わないのではないかという結論に至ったところです。逆に言うなれば、その「回収をあきらめるのが普通」である学生労働者をうまいこと使っているのが外食やら小売やら学習塾なのだということでしょう。

 こういう労働者の受皿というと、伝統的に正社員クラブである企業別労働組合は何の役にも立たんので、いわゆる合同労組(地域ユニオンとか)が想定されるのが本来なわけですが、合同労組もやはり(以前お会いして話を聞いた方の話では)、個別労働紛争の支援というのは本来の姿でないという意識をお持ちだったのを覚えています。駆け込み寺的に、解雇にあった時だけ加入し、半年でいなくなってしまうという組合員が多いのが悩み、だそうです。

 しかし、学生のバイトなんてものは、(前述のとおり摩擦の大きい市場ではあっても、そもそも生活を労働に依存するものでないため)バイト先の労働条件の改善のために組合闘争をするような人はほぼいないです。つまり、学生バイトの労働トラブルの受皿に必要なものは、必要な時に(半年分とかの組合費をいわば「着手金」のようにして)未払い賃金の回収を支援してくれるような駆け込み寺そのものなのではないかということです。つまり、想定されるのは◯◯大学学生合同労働組合、みたいな学生団体になります。争議行為とかは基本的には想定しておらず、未払い等のトラブルがあったときに組合費を払って組合員になり、団体が個別労働紛争の解決支援をする……

 ……というような妄想をしたところです。実際には難しいですが。みんな数年で卒業していく大学で誰が法律上の始末をつけれるのかとか、専従の職員いないと無理そうだけどどうすんのかとか。

 まあ、学生団体としての学生労組はジョークとしても、学生をうまいこと使う企業って多いですよ。そういうところで働いている学生を見ると、いやもっとマシなバイト探せばあるやろ、とか思うんですよ。苦労こそが成長の糧、みたいなシバキアゲ学生もいるし、そういう人にはもう揶揄する以上のことは何もできませんけどね。ついでに言えば、学生搾取企業滅ぶべし、とも別に思わないです。たかが学生のバイトなのに、次のバイト探すでもなく敢えてクソなバイトで働こうという学生をことさら保護する必要というのも感じないですしね。(だから、「お前がその組合作れよ」と言われても作りません。)

*1:「当事者が雇用契約を締結した目的を達するにつき重大なる支障を惹起する事項」(大判大正11.5.29大民集1-259)、使用者側に原因のある場合の労働者側からの解除について具体的な裁判例は少ないが、賃金は労働契約の中核的目的であり、この一部の故意・過失による不払いは「契約の目的の達成の重大な障害」と評価されよう。

*2:もちろん退職前にも可能ですが、未払い賃金を争いながらその職場で働きたいアルバイト学生というものがあまり想定できないということです。

*3:もちろん個人で会社相手に頑張ることも可能ですが、実際にやる人は法学部でも稀です。いますけどね。

*4:過払いなら、貸金業者が回収のため必要な情報を出してくるけど賃金請求ではそうはいかない