“公共の福祉”の恐怖

 性犯罪前歴者GPS常時監視 宮城知事、条例検討を表明河北新報

 宮城県、性犯罪前歴者のGPS監視検討 唐突な表明に不信感も河北新報

 参考:平22犯罪白書第二部法務省

 宮城県の“女性と子どもへの暴力対策を話し合う県の有識者懇談会”での知事の提案。先日も知事が児童ポルノの単純所持規制をぶっぱなした(http://d.hatena.ne.jp/cannon_cntn/20101229)が、今度は性犯罪前歴者の監視を始めたいとした。宮城県知事は、「女性や13歳未満の子どもへの強姦、強制わいせつなどの罪で懲役や禁錮刑を執行された20歳以上の県内在住者」について、GPSの携帯義務付けと遺伝子情報の提出を命じることを可能にしたいとしている。上にあげた犯罪白書によれば、強制わいせつ罪を含む性犯罪の前歴者の性犯再犯率は37.5%であり、強姦罪における強制わいせつを含めた性犯による前科の有前科者率は13.1%(同資料51頁)であるという。もちろん「再犯率」と「有前科者率」の定義が名前のとおり別のものであることを認識しておかなくてはならない。

 一般に、性犯罪の予防という錦の御旗の効果は非常に大きい。その犯罪の陰惨さや、被害者の声が心情に訴えるものであることから、性犯罪の予防が出来るなら何でもやってよい、という感覚を持ちやすい。ここでよく持ち出されるのが「公共の福祉」(その内容がどのように理解されているかを問わない。用語として聞かれる)であり、村井嘉浩知事の発言の中にもある。先日の件と合わせて、彼は、公共の福祉について「人権というものは、清潔な社会を作るために内在的に制約されるものであり、清潔な社会のために権利を犠牲にしたとしてもそれは人権侵害ではない」と考えているように思われる。精神障害者措置入院精神保健及び精神障害者福祉に関する法律29条)についても同じで、措置入院は“医療及び保護のために入院させなければ、精神障害のために自身を傷つけ、または他人を害するおそれがある”ことを要している通り、「公共の福祉」なるマジックワードではなく、人を害することについての危険ゆえにその権利を制限することを特別に許した規定と解されなくてはならない。

 身体や移動の自由について、「公共の福祉」を理由として安易な制限が許されないことくらいは、知事なら知ってるものかとも思ったけど、政治家にそれを期待するほうが間違ってるのだろうか。ああでも、自分も法学部なんて来なかったらそんなこと一生知らないままだったような気もするかな。公共の福祉のためにならない人とかモノとかいろいろあって、アラサーになって働いてない俺のような個人は今の社会一般の感覚で言えば公共の福祉のためにマイナスだって言えないこともない。こういう記事を書いていると、「きゃのんは性犯罪者を擁護する性犯罪者予備軍」というレッテルを貼られて公共の福祉に反する人間ってことになることもきっと可能。じゃあ俺のような人間は強制労働させたらいいか、とか、邪魔だから社会から出ていってもらおう、とか言いだす社会はきっと不健全な社会だよ。この件について宮城県に対しては直接できることはほとんどないけど、周知活動だけはしていけたらいいですね。


 「有識者」の中身が学者3,強姦被害者で作家1,DV被害者保護団体代表1という構成であったことに、まだ良識のカケラが無くもないということを感じることはできた。これで被害者団体、PTA、市民団体、県警、とか並んでたら絶望するところだった。