刑事政策としての児童ポルノ規制〜宮城県の暴走

宮城、単純所持禁止条例を検討へ 児童ポルノ規制で(47NEWS)
児童ポルノ規制へ独自条例検討…宮城(読売)
児童ポルノの個人所持禁止、県が条例化を検討(朝日)
児童ポルノ:画像・動画、趣味の所持禁止 知事表明、条例の来年度成立目指す /宮城(毎日)

 ※先に断っておきますが、この記事は、表現の自由と性的表現に関連する記事ではなく、児童ポルノの製造及び販売等を擁護するものでもありません。

 宮城県が、児童ポルノの単純所持規制(罰則つき)を制定しようとしている。知事がなんとなくぶっぱしてみたとも見れるが、議会でどの程度進行しているのかは不明。内容も上にあげた各メディアの報道内容以上のものは現時点では不明。記事を見ると、村井知事は条例について「『プライバシーの侵害』などと批判を受けることも想定される」としたうえで、「被害者を主役に考えると、踏み込んだ対策にするのは当然」との考えを示したと書かれている。この宮城県の動きは、刑事政策上どのような意味を持つのかを考えたい。

 まず、一般に児童ポルノとは、児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律の2条3項の各号に該当するものをいう。分かりにくい上に線引きも不明瞭であり、どうとでも解釈が可能なように書かれた表現だが、簡単にいえば、1〜3号の内容の写真・ビデオ(電子データを含む)をいう。なお、条文には実写に限るとする記述はないが、実写と一般には理解されている。(線引きの不明瞭さ、絵を含めるか否か、というのは、表現の自由と性的表現の憲法上の問題であり、今回は割愛)。当然ながらこれは、児童に対する性的搾取及び性的虐待によって生産されるものであり、同法1条がいうように児童の権利を著しく侵害するものであるがゆえに、その製造・提供等が禁じられている(同法7条、いわゆる「児童ポルノの販売規制」)。つまり、この法律は、性的搾取の被害者となる児童の権利(性的自己決定権とか)を保護法益として、その法益を侵害する行為を犯罪と規定したものである。

 では宮城県のいう、単純所持の規制とはどういう意味であろうか。

 まず、法益保護の観点から見る。条例は法律の範囲内で作らねばならないものであり、その保護法益も法律の範囲内のものである。つまり、「所持」という状態が誰かの性的自己決定権を侵害する、あるいは所持の状態が誰かに対する性的搾取に当たるといえるかの問題である。これは、どちらにも該当しない。『所持しているその児童ポルノは、誰かが児童の権利を犠牲に作ったものであり、児童ポルノの蔓延を助長するから、これを防ぐために所持を規制しなければいけない』という主張は一見説得力をもつようにも見えるが、仮にこれが犯罪に当たるのであれば、フリーマーケットで盗品を買って所持していることは本来の所有者の権利を犠牲にしているものであり、窃盗を助長するものであって犯罪である、というのと同レベルの話であることに注意したい。一方で、児ポ法の保護法益そのものを、「児童ポルノのようなものをオカズにしてマスかいてるロリコンのいない健全な社会」というように定義するならば、単純所持も犯罪とするのは理にかなう。もちろん、その発想が治安維持法レベルの思想弾圧であり、それがどれほどに危険な発想であるかということを自覚していただかなくてはならない。

 また、単純所持すなわち犯罪であるというのは、「継続犯」であることを意味する。児ポ法の提供罪の公訴時効は3年であるが、単純所持の罪となると、いつまででも忘れた頃にでも罪に問われることになる。取得が10年前だろうが半世紀前だろうが100年前だろうが、持っていれば犯罪となりうる。20年前に撮った自分の子どもの写真であったとしても、誰かがそれによって性欲を刺激されるもの(児ポ法2条3項3号)であれば、持っていることが犯罪となりうる。
 これに関連して、過去に合法的に取得したものであっても所有が罰されるのならば、それは事後立法による遡及法に他ならず、法の不遡及という法体系全体の原則を覆すものであることもわかった上でなお立法しようというのかも不明である。
 その他にも、単純所持が犯罪となりうるならば、それを理由に家宅捜索や逮捕が可能になるのであり、警察権力の無制限な拡大につながるという問題もある。


 このように数多くの問題を内包する単純所持規制について、社会不安を解決するなどといった聞こえのいい言葉をもってまともな議論を回避しようとする姿勢は度し難い。冒頭の宮城県知事の言葉(斜体部分)からはそのような発想を見て取ることができる。なぜ、現行の製造・提供罪ではダメなのか、取得でもなく単純所持規制にする理由は何なのか、規制は何を目的にしたものなのか、そしてその規制の手段は目的に対して本当に有効なものなのか。これらを疑いの目をもって問わなくてはならない。